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2024/11/25 15:57 |
此処から全てが始まる物語
※初代冴星のお話です。ネタバレが嫌な方、初代捏造が嫌な方、名前変換が無いのが嫌な方は観覧はご遠慮ください。





それは悲劇か。
それとも喜劇か。

昔々の話をしてあげよう。
とても悲しい思いを背負った少女がいました。
それを背負う前、少女はとても幸せでした。
そう、幸せだったのです。とても、とっても。
始まりは、幸福からだったのです。


ただ幸せを望んでいた。
裕福になりたいとか、そんな贅沢な願いじゃなくて。
家族がいて、大切な人がいて、毎日他愛のない話で笑っていられればそれでよかった。
なのに、
あいつらはこの幸せを、私から奪っていった。



それは、小さな村だった。
とりわけ裕福な家はない素朴な建ち並び。
外には農村が広がり、村長と呼べる人の家も村民と何ら変わりない生活をしていた。

「リル姉、おばあちゃん、アルテ兄早くー!」
「メーラ、そんな急がないで。お婆さんはそんなに速く走れないんだから」

一人の老女と一人の青年、二人の少女は村外れの草原を歩いていた一番小さな少女は、一人で小高い丘目がけて走っていく。

「リルチェンテ、お婆さんのことは僕に任せてメーラと先に行っててくれ」
「、アルテ。でも・・・」
「メーラはせっかちだから、機嫌を損ねると長いのは君も知ってるだろう?」
「・・・じゃあ、任せたわよ」

アルテは笑ってお婆さんを支えるそれに安心したリルチェンテはメーラを追い掛けた

「メーラ!そんなに急いでいたら転ぶわよ!」
「だいじょーぶだもんっ!えへ、着いたー!!」

少し小高い丘にメーラは一番乗りしたからか軽く飛び跳ねて喜んでいる。
少し呆れて息を吐くリルチェンテが到着したと同時に東から風が吹く。
心地のよい風を感覚で感じ取ろうと目を瞑ると突然メーラに袖を引かれた。

「ね、ね!ここで結婚式上げるんでしょ!?ううん、ここでやって結婚式!」
「っメーラ!」

顔を赤くして妹を叱り付ける。
彼女、リルチェンテは十六歳。世間的には十分所帯を持って良い歳だ。
リルチェンテと同年代の村娘はみんな結婚をしていると言うのに、彼女だけはどこにも嫁がなかった。

「わ、私が結婚とか、まだ早いでしょう!」
「えー!ミネルのお姉ちゃんも結婚式上げてるんだよ?リル姉の花嫁さまも見たい!」
「まだ親孝行していたいの!それに私がどこか行ったらメーラ、泣いちゃうし」
「泣かないもん!リル姉子供扱いしないで!」
「11歳は十分子供です~」
「屁理屈ばっかり言ってるとアルテ兄に嫌われるよ!唯一の貰い手なのに!」
「あいつは関係ない、て貰い手とかどこで覚えてきたの!」
「こら、妹をそんなに叱り付けたら逆効果だろう」

弾かれるように振り向けば祖母と幼なじみのアルテが到着していた。
さっきまで憎まれ口を吐いていたメーラは打って変わって、嬉しそうに祖母の胸に飛び付いた。

「ねえおばあちゃんは本当にここで結婚式上げたんだよね!?」
「そうだよ。そしてメーラとリルのお母さんが結婚式をしたところでもあるのさ」

それを聞いたメーラは目をキラキラさせる。
彼女は恋愛が好きだった。その対象が自分であれ他人であれ、はたまた空想であれ、恋愛の話は彼女の心を踊らせた。


「リルチェンテもメーラもいつかはここで世界で一番好きな人と結婚式を挙げるのが、お婆ちゃんの夢なんだよ」
「っ!だって、だって!早くアルテ兄と結婚式挙げてよリル姉!」
「ちょ、だから私は・・・!」
「もう!リル姉はアルテ兄と結婚したくないの!?」
「だから・・・私にはまだ早いって」
「いーもんっあたしがアルテ兄と結婚しておばあちゃんを喜ばせるから!」
「なっ・・・!」
「んー、メーラそれはダメかな」


頭に血が上ったリルチェンテをやんわりと自分の後ろに押し入れたアルテ。
首だけ振り返ってリルチェンテに微笑んだあと膝をついてメーラと視線をあわせた。


「僕と結婚したら、リルチェンテはメーラの前からいなくなっちゃうかもしれないよ」
「ぇ・・・やだ何でアルテ兄!?」
「いいかいメーラ、好きでもない人と一緒になったら神様からばちを貰ってしまうんだ」
「アルテ兄は好きだよ!」
「そうだね、ありがとうメーラ。じゃあ僕とリルチェンテだとどっちが好き?」
「どっちも!」
「言い方変えようか。どっちの好きが大きいかな?」
「ん?んー・・・・・・リル姉!!」
「結婚て言うのは世界で一番好きな人とするものだよ。僕よりリルチェンテが好きなら、僕と結婚しては駄目だ。
 それに…僕もメーラのこと好きだけど、リルチェンテが世界で一番好きだからね。ごめんよ、メーラ」


本人目の前にいるわ人前だわ、よくも恥ずかしげもなくそんなことさらりと言えるわねこの男・・・
それでも本気で憎めないのは惚れた弱味か。リルチェンテは自分の前髪をくしゃりと掴む。
リルチェンテとアルテは互いに思い合っていた。
今すぐに夫婦になってもおかしくない間柄だというのに、リルチェンテはまだ駄目だと断った。
リルチェンテの父は五年前、不慮の事故で亡くしており、それに心が病んだ母親のために家の家事をリルチェンテ一人で切り盛りしていた。
母の精神は回復に向かいつつあるが万全ではない。
腰の弱ってきた祖母の世話も、一人前の女性といえないメーラの仕付けも、全部放って自分だけ幸せになるわけにはいかなかった。


『リルチェンテの整理がつくまで、僕は待っているよ。ずっとね』


そう言って微笑んで、降り注がれた唇の感触が今でも忘れられない。
ただの幼なじみだと思っていた。それなのにいつからか、アルテに対して特別な感情を抱いていたリルチェンテ。
彼の優しさを、自分だけに与えてほしい。そう思ったときにはもう手遅れなほどアルテを好きになっていた。
そんなリルチェンテを好きだと、愛しているという彼もまた、彼女以上に彼女を愛していた。


「所で、さっき何で怒ってたの?」
「!い、いや・・・別に気にするほどのことじゃないから」
「・・・つまり僕には言いたくないこと?ふーん」
「ち、ちが・・・本当なんでもないったら!アルテは何も気にしないでっ」
「・・・ふふ、じゃあそう言うことにしておいてあげるよ。未来のお嫁さん?」
「あっアルテー!!」


幸せだった。こんな、ごく当たり前のことが私にとっては変えがたいものだった。
これがいつまでも続く幸福だと疑わなかったから。
私はなんて幸せ者なのだろう。そう思っていた。
あの日までは。

 

 

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2010/07/12 16:44 | Comments(0) | TrackBack() | 初代冴星

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